微小押しこみ試験の国際規格ISO14577とは?
はじめに
過去に研究者は、計装化押し込み試験の結果を、他の方法で測定された機械的性質と関連付けてきました。 研究・製品開発の専門家たちは、検査試料のための 「最もよく知られた方法」 ("Best Known Methods":BKM)を考案しました。
国際標準化機構(ISO)によるISO14577制定前に頻繁に使用された手順は、フューズドシリカ(熱溶融石英)をベンチマーク試料としてインデンテーション装置の校正に使用することでした。 研究界と同様に殆どの装置メーカーでもフューズドシリカを使用したため、フューズドシリカは測定試料のBKMになったのです。 ベンチマーク標準試料としてフューズドシリカを使用することによって、装置が適切に機能し、他の材料における同様の実験結果が有効であったことを、研究者自身で保証することができました。
ISO14577の制定によって、装置の性能を校正・評価して一貫した繰返し性のある試験測定結果を保証することが、標準かつゆるぎないものになりました。 この結果として、試験結果に対する高度な確信、信頼度、繰返し性が得られました。ISO14577の方法を実行することによって、測定における誤差の余地を最小化し、再現性を増加させ、結果を比較することが可能になります。
ISO 14577とは? なぜISO 14577? その価値は?
ISO14577への準拠によって、現在のBKMが取って代わられるか、あるいは試験結果と機械的性質との相関性のみに留まらず質的結果を導く方法の検討という次のレベルにBKMが引き上げられることになるでしょう。
ISO14577は、試験方法と分析、試験装置の検証、標準試料の生産という3つの部分(Part 1,2,3)から構成されています。 ISO標準に準拠した装置を使用することの価値とは、測定と報告された結果に対する確信です。 この価値は、学術界と産業界の両方で現われます。 学術界で最も重要かつ発表で求められるのは結果の集積であり、産業界では結果が決定に影響を及ぼします。
ISO14577は、測定された機械的性質、押し込み試験の手順、結果と試験内容を報告する方法を勘案しつつ定性的・半定量的に試験の結論が導かれる余地を排除します。 さらに、研究者とパートナーとなる産業界とで、異なった場所での試験結果を比較することが、最大限のレベルで保証されるようになりました。
正確さ、繰返し性、再現性が最も重要である場合、このレベルの性能が求められます。ISO14577に適合させることによって、性能および信頼できる結果に基づいた認識の基礎が築かれます。
ここに、ISO 14577 Part 1,2,3のすべてに適合することを、自信を持って発表します。
試験方法および分析
ISO14577は、試験手順における検証可能な結果を導く方法を規定しました。 ISO14577 Part 1では、報告すべき試験手順およびその結果について規定しています。 例えば、荷重―時間履歴についての規定はありませんが、それを報告する手順については規定されており、試験を正確に再現するための十分な情報を含む最終報告書が要求されます。
ISO14577の規定では、試験するパラメータに加え、最終報告書には機械的性質とそれに関連する不確かさに関する記述を含めなくてはなりません。 結果の一部として報告される不確かさとは、基本測定と二次的な計算に関連したあらゆる誤差を網羅したものです。
ISO14577に準拠した報告書では、試験を正確に再現するのに必要な方法と、結果の質を議論するために要求される不確かさに関する記述を含んでいなくてはなりません。
NanoSuiteプログラムでは不確かさの分析と要求される結果とを統合しており、ユーザに負担をかけることなく報告書の作成ができるようになっています。
ISO標準の方法と CSM法による結果の比較
NanoSuiteによる間接的検証
試験装置の検証
ISO14577 Part 2では、装置の構成要素および校正が適切に機能し、かつ正確であることを保証する直接的・間接的検証手順について規定しています。
直接的検証手順には、ナノインデンターによって印加される荷重と、検出される変位を、追跡可能な方法で検証する手順が含まれ、これには校正されたレーザー干渉計あるいは荷重計を含めることができます。
間接的検証手順とは、校正の有効性を検査するために慣例的に使用される手順のことで、ナノインデンテーション以外の方法で特性が既知となっている2つのリファレンス試料を試験することを含みます。
ISO14577では、「計測における不確かさの表現のガイド」 ("ISO-Guide to the Expression of Uncertainty in Measurements": GUM)に従った、不確かさの完全な分析を要求しています。 不確かさ分析では、物理的な構成要素あるいは手順に起因する誤差、および機械的特性結果の計算時にどのように誤差が伝播するかを分析することが要求されています。 ISO適合キットの一部として、不確かさ分析機能を用意しています。
ISO14577 Part 1,2,3の完全準拠が必須
ISO14577 Part 1,2,3のうち1つまたは2つだけ準拠しても、ISO 14577準拠とは認められません。ISO14577に完全準拠した装置でのみ、結果の正確さおよび繰返し性に対して確信することができます。ISO14577はデータ保全性を保証するために制定されており、完全準拠した場合にのみ有効です。
ナノテクノロジーの研究および製品開発における前進
Nano Indenter G200とISO試験方法の設計によって、ISO 14577標準の実装支援において一歩前進しました。ISO14577 Part 1,2,3のすべてに準拠し、試験方法を開発することによって、ISO14577標準の実装が容易になり、新たな産業界標準という より高い位置に進みました。
ISOの根拠
国際標準化機構(ISO)は、信頼度を保証する標準を制定するために承認された非政府組織です。 ISO14577は2002年に採択され、その目的は計装化押し込み試験を標準化することにあります。
ISO 14577はPart 1,2,3の3つの部分から構成されます。
Part 1では、硬度および他の機械的特性を決定するのに使用される試験方法および分析方法を規定しています。
Part 2では、試験装置の性能を検証するための手順を規定しています。
Part 3では、標準参考試料に求められる条件を規定しています。
ISO14577標準の仕様書は、以下に示すISOのWebサイトから直接購入することができます。
https://www.iso.org/home.html