ナノインデンター用圧子の種類
測定の目的に応じて適切な圧子を選択することは大切です。当社では主に6種類の異なる形状の圧子を提供しています。
- バーコビッチ
- ビッカース
- キューブコーナー
- 円錐
- 球
- フラットパンチ
このページではフラットパンチ以外の詳細を紹介しています。
※フラットパンチの使用例はこちら。
バーコビッチ
バーコビッチ圧子は、ナノインデンテーションにおいて材料の機械的特性を取得するために最もよく使用されます。バーコビッチ圧子は三角錐で、硬さの相似則が非常に微小な領域まで成り立ちます。この形状は四角錐形状であるビッカース圧子と多くの場合は同様に用いることが可能です。
バーコビッチ圧子はほどんの測定目的に対して理想的です。この圧子は簡単には壊れることがなく、三角錐であり先端を先鋭化することが比較的用意であるため、安定して製造することが可能です。先端が細いため非常に小さい荷重でもサンプルの塑性変形を起こさせることが可能で、これにより安定した硬度測定が実現されます。バーコビッチ圧子の内角は142.3°と大きく、サンプルとの摩擦力の影響と極力抑えられています。
トレーサブル標準として提供可能です。
新製品
圧子製造元のスイス・Synton-MDP社は、コーン部の開き角が30°のバーコビッチ圧子の販売を開始しました。トレンチ構造などの通常のバーコビッチ圧子では測定が難しいサンプルについても測定が行えます。
バーコビッチ圧子が推奨されるアプリケーション:
- バルク材料
- 薄膜
- 高分子(E’ > 1GPa)※
- スクラッチ試験
- 摩耗試験
- マイクロエレクトロニクスシステム(MEMS)
- In-situイメージング
※E'≦1GPaの測定も可能ですが、ヤング率のみを測定するのであればフラットパンチによる動的粘弾性測定を推奨しています。
ビッカース
ビッカース圧子も、ナノインデンテーションにおいて材料のナノスケールの機械的特性を取得するためによく使用されます。四角錐の形状であり、バーコビッチ圧子ほど先端曲率が小さくない(>400nm)ため浅い押し込みには不向きです。従来のビッカース硬さ試験と比較するためには便利です。
ビッカース圧子もトレーサブル標準として提供可能です。
ビッカース圧子が推奨されるアプリケーション:
キューブコーナー
キューブコーナー圧子は三角錐の形状ですが、バーコビッチ圧子とは角度が異なります。面と面がなす角が90°であり、サイコロの角を切り取ったような形になります。中心線と面のなす角は34.3°です。一方でバーコビッチ圧子の場合はなす角が65.3°となりますので、キューブコーナーの方がより尖った計上をしています。同じ荷重でも接触面積が非常に小さくなりサンプルへの応力が集中しやすいため、サンプルはクラックを発生しやすくなります。このクラックから微小領域における破壊靭性等の特性を求めることが可能です。
キューブコーナー圧子もトレーサブル標準として提供可能です。
キューブコーナー圧子が推奨されるアプリケーション:
- スクラッチ試験
- 破壊靭性
- 摩耗試験
- マイクロエレクトロニクスシステム(MEMS)
- In-situイメージング
円錐圧子
円錐圧子チップは鋭く、自己相似な形状であり、それでいて円筒対称性の単純さがあり、モデリングの観点からは魅力的です。 ナノインデンテーション試験ををサポートするために使用される多くのモデルは円錐形の圧痕接触に基づいています。圧子の鋭い端部での応力集中に関連する複雑さが存在しないため、円錐形はまた魅力的です。しかし、ナノインデンテーション試験で円錐を用いているケースは非常に少ないです。主な理由は、鋭利な先端を持つ円錐形ダイヤモンドを製造することが難しく、ナノインデンテーション試験の大部分が発展させしてきた微小スケールでの試験にはほとんど役に立たないことです。この問題は、大きなスケールでは当てはまらず、その分野ではナノインデンテーション試験において円錐圧子を使用することによって多くの結果が得られています。
スクラッチ試験においてはキューブコーナー圧子のように極端な応力集中が起きにくいため割れを緩和した傷つき性の評価が可能となる場合があります。
円錐圧子が推奨されるアプリケーション:
- スクラッチ試験
- 摩耗試験
- In-situイメージング
- マイクロエレクトロニクスシステム(MEMS)
球状圧子
球状圧子チップを使用した場合、押し込み試験中の応力はバーコビッチ圧子またはビッカース圧子のいずれと比較しても異なります。球状圧子の場合、接触応力は最初は小さく、弾性変形のみを引き起こします。球状圧子が表面に打ち込まれると、弾性変形から塑性変形への移行が起こります。これは理論的には降伏と加工硬化を調べ、1回の試験で得られたデータから一軸応力 - ひずみ曲線全体を再現するために使用できます。球を使用したナノインデンテーション試験は、より大きな直径の圧子で最もうまく使用されています。ミクロンスケールでは、球状圧子の使用は、硬質の硬質材料からた高品質の球体を製造することが困難であることによって妨げられてきました。これがバーコビッチ圧子が、弾塑性転移の調査には使用できないにもかかわらず、ほとんどの微小領域スケールにおける試験のための最適な圧子となっている1つの理由です。
球圧子が推奨されるアプリケーション:
バーコビッチ | ビッカース | キューブコーナー | 円錐(角度ψ) | 球 (半径 R) | |
---|---|---|---|---|---|
形状 | 三角錐 |
四角錐 |
三角錐 |
円錐 |
球 |
材質 | ダイヤモンド, サファイア, WC |
ダイヤモンド | ダイヤモンド, サファイア, WC |
ダイヤモンド, サファイア |
サファイア, ガラス |
用途 | バルク材料, 薄膜, ポリマー, スクラッチ, 摩耗試験, MEMS, イメージング |
バルク材料, 薄膜および箔, スクラッチ, 摩耗試験 |
薄膜, スクラッチ, 破壊靭性, 摩耗試験, MEMS, イメージング |
モデリング, スクラッチ, 摩耗試験, イメージング, MEMS |
MEMS |
トレーサビリティ | あり | あり | あり | なし | なし |
パラメータ | |||||
中心線と面のなす角度, α | 65.3° | 68° | 35.2644° | — | — |
面積 (投影), A(d) | 24.56d2 | 24.504d2 | 2.5981d2 | πa2 | πa2 |
体積, V(d) | 8.1873d3 | 8.1681d3 | 0.8657d3 | — | — |
投影面積/接触面積, A/Af | 0.908 | 0.927 | 0.5774 | — | — |
等価な円錐体の角度, ψ | 70.32° | 70.2996° | 42.28° | ψ | — |
接触半径, a | — | — | — | d tan ψ |
特注圧子
ここでは、標準的な圧子のご紹介をしてきました。上記に限らず様々な圧子の作製に対応しております。目的のデータが取得できない際に、特殊な圧子で測定がうまくいく場合がありますので、お気軽にお問い合わせください。