空への希望を未来へ繋ぐ-伝説のテストパイロットが語る、エアモビリティのこれから(2/3)
第2回:テストパイロットから見たトップガンとeVTOL
MRJ(三菱リージョナルジェット)の初飛行を成功させた伝説のテストパイロットであり、現在はeVTOL開発の支援のお仕事もしていらっしゃるAeroVXR合同会社CEO安村様に、テストパイロットの仕事や航空機の型式証明、エアモビリティの未来についてお話を伺いました。映画トップガンの話も飛び出したインタビューを、全3回に分けてお届けします。
* eVTOL=electric Vertical Take-off and Landing aircraft、電動垂直離着陸機)
インタビュアー
東陽テクニカ 理化学計測部 エアモビリティプロジェクト 二上貴夫、 名古屋支店 庄司菜穂子
二上:映画の話になるのですが、2023年に公開されて人気を博したトム・クルーズ主演の『トップガン マーヴェリック』はご覧になりましたか?テストパイロットとしての経験と照らし合わせて、安村様の目にあの映画がどう映ったのかぜひお聞きしたいです。
安村氏:最新のマーヴェリックもテストパイロットですね。シリーズの最初から見ていますが、映画のあちらこちらに嘘がありますが、薄っぺらな噓ではなくて、しっかりと現実の世界がわかった上で、少し誇張した嘘なのです。私にとってはすごくわくわくする映画でした。米海軍がきちんと監修していますね。
細かいところで言えば気になる点はあって、例えば、爆撃ミッションが成功して地上からレーダー誘導ミサイル(ミサイル先端が尖っているためそう判断)を撃たれる場面がありますが、そのミサイル避けるときにマーヴェリック達が赤い火の玉を射出しています。あれはフレアと言って赤外線誘導のミサイルを目くらましするために使う妨害装置なんです。レーダー誘導ミサイルに対して、あれは意味ないのになぁと思いました。一方で、レーダーミサイルに対してはチャフという妨害装置があります。この装置は細かく裁断したアルミ箔のようなものをまき散らすのですが、目には見えにくいので、映画では使っているけれど見えなかっただけかもしれないです。
二上:映画冒頭のマーヴェリックがマッハ10まで速度を上げて飛行する部分は、チャック・イェーガーのF104のオマージュですよね。
安村氏:そう思います。マッハ10を達成するというのは現実的に無理ですが、空気摩擦熱で機体が熱くなるところなどは比較的現実的な表現だと思います。ただ、飛行試験の現場ではパイロット一人の判断で目標を変えてしまうことは絶対にやらないですが。
二上:しかしそれを、チャック・イェーガーの時代はやっていた。
安村氏:あの時代は実際に飛行させて確認するしかなかったのだと思います。誰も音速を超えたことがないので、超音速域の空力がどうなっているかのデータもなく、地上での実験等を基に想像することしかできなかったと思います。チャック・イェーガーは何回も挑戦した結果音速を超えていますね。
二上:戦闘機や航空機など様々な飛行機に乗り続けてきた成層圏の覇者安村さんにとって、それよりはずっと高度の低いところを飛ぶ、乗り物としてのeVTOLはどんな存在ですか?
安村氏:戦闘機が超音速や高高度で飛ぶというのは戦闘という目的を達成するためだからで、私はeVTOLにはまったく違った魅力があると思います。eVTOLのプロペラが水平に回って、垂直に上がって姿勢を維持して飛べるというのは、そのこと自体がとても魅力的です。どうやって制御されて浮いているのだろうという思いで見ています。
普通飛行機って速度を出すと主翼の揚力で浮かび舵面を動かして機体姿勢を変えます。パイロットが操縦しなくても安定しますが、eVTOLは本来機体が安定してないですよね。ちょっとでもバランスを崩すとひっくり返る不安定な機体をコンピューターで安定させて浮いています。コンピューターにパイロットが指令を出して飛行を安定させたり姿勢を変えたりします。今までとは全く別の新しい乗り物ですよね。そこにフロンティアとしての魅力があります。
二上:ヘリコプターはコンピューターが登場する前から開発されていて、自然法則として空力的に安定ですが、マルチコプターは不安定ですよね。半導体産業が性能の良いジャイロを開発し、日持ちのする電池が出来た。全部組み合わせたら、ふわっと浮いた。 飛ぶものとしては本質的に不安定だがソフトウェアとセンサーで安定化させていて、それが空力の要素になっている。そこが我々東陽テクニカの電子工学畑の人間が産業上貢献できる部分なのかもしれませんね。
安村氏:その通りです。その上でプロジェクトテストパイロットが開発に関わって、今までなかった新しい乗り物をどうやって開発をサポートしていくのかというところが肝ですね。
―ソフトウェアで遠隔操作も見えてきている今、eVTOLがパイロットを乗せる意義はなんでしょうか?
安村氏:AIやセンサー技術の急伸もあり、自動的・自律的な制御ができるようになるとその部分では人間のパイロットはいらなくなるかも知れません。何年先かは分かりませんが将来的には自律飛行の旅客機が乗客を乗せて飛ぶ可能性もあります。技術的には出来る時がくると思いますが、技術面とは別に倫理的な問題も考える必要があります。パイロットのいない飛行機に500人近い乗客を乗せて飛ばしますか?あなたはその飛行機に乗りますか?ということです。現在は「ノー、乗りたくない」と言う人が多いと思います。だから最終的に人として責任がとれるパイロットの搭乗が必要となるのです。
時代が進んでいって、車の自動運転が普通になって、ドライバーレスが当たり前の時代がきたら、ひょっとするとパイロットのいない旅客機も受け入れられるかもしれないですね。
二上:輸送する手段としてのパイロットはいなくなるかもしれませんが、飛行機にのって飛びたい人はいますよね。
安村氏:そこは残ると思います。そもそも日本と欧米では飛行機に対する見方が違っていて、日本では移動手段の一つとして見ている人が多いですが、欧米ではパイロットのライセンスを取得して自由に飛行することを楽しんでいる人が多いです。自動車レースのF1が自動運転にならないように、飛行機を自分で操縦したいという人は無くならないと思います。
今回はeVTOLと映画トップガンについて、テストパイロットならではの視点で語っていただきました。次回は型式証明と、安村様が立ち上げたAeroVXRについてのお話です。
空への希望を未来へ繋ぐ-伝説のテストパイロットが語る、エアモビリティのこれから
AeroVXR合同会社 CEO安村佳之様インタビュー(全3回)
プロフィール
PROFILE
安村佳之
AeroVXR合同会社
CEO/テストパイロット
航空自衛隊、三菱重工業、三菱航空機で
計35機種、約7,000時間の飛行を経験。
MRJの初飛行を機長として成功させた。
2021年、AeroVXRを設立。
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