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第3回:型式証明の難しさと、日本のエアモビリティの未来
インタビュー
2024/05/15

空への希望を未来へ繋ぐ-伝説のテストパイロットが語る、エアモビリティのこれから(3/3)
第3回:型式証明の難しさと、日本のエアモビリティの未来

MRJ(三菱リージョナルジェット)の初飛行を成功させた伝説のテストパイロットであり、現在はeVTOL開発の支援のお仕事もしていらっしゃるAeroVXR合同会社CEO安村様に、テストパイロットの仕事や航空機の型式証明、エアモビリティの未来についてお話を伺いました。映画トップガンの話も飛び出したインタビューを、全3回に分けてお届けします。
* eVTOL=electric Vertical Take-off and Landing aircraft、電動垂直離着陸機)

インタビュアー
東陽テクニカ 理化学計測部 エアモビリティプロジェクト 二上貴夫、 名古屋支店 庄司菜穂子

eVTOLが挑戦する、型式証明の壁とは

―安村様が立ち上げられた会社、AeroVXRについてお聞かせください。
得意とする分野として「航空機等の開発業務に関わる指導及び各種認証コンサルティング」をあげていらっしゃいます。
これから型式証明取得を目指す国内のエアモビリティメーカ各社にとって、MSJ(三菱スペースジェット、旧MRJ)の経験を活かし状況がよくなっているのか、それとも、いまだ型式証明取得には課題が多いのでしょうか。

安村氏:型式証明の経験があるからといって、証明を取得することが楽かというとそうではありません。新たな機体の型式証明をするたびにその元となる要求事項が機体によって違います。旅客機の安全基準は耐空性審査要領の第三部、アメリカのFAAレギュレーションだとパート25を使うのですが、eVTOL機などはパート23の小型機もしくはパート27のヘリコプターなどと複合された要求になります。開発する機体ごとに要求が違うので過去の経験は有効に使えますが、新しいものを作る限り認証を取得する困難さはあまり変わらないと思います。 安全基準の要求を満足する機体にするにはどう設計すればよいのか、どう試験し、どういうデータを航空局に示したら型式証明が取得できるか、毎回一から考えなければならないので大変です。

―認証は航空局が試験方法を決めているわけではないのですね。プロジェクトテストパイロットは試験方法の決定にも関わっているのでしょうか?

試験の分野にもよります。型式証明の試験の中でも、例えばエアコンがしっかりきいてキャビンエリアが適切な温度が保てるとか、油圧、電源の基本性能などの部分はパイロットはあまり関係なく、航空局と担当設計エンジニアが進めていきます。

パイロットが直接関わるところは操縦性などが主で、操縦桿を動かしたら機体がどう動くかといった分野です。特にハイスピードの操縦性確認では、高速ダイブをしながら普段では出さないスピードまで加速し、機体が共振しないことを含めて確認しなければならないのですが、これはとても危険な試験です。その危険な試験の試験方法を設計者だけでは決められないので、テストパイロットと一緒に考えます。上記のように操縦関係の試験はテストパイロットが試験計画や合格基準に深く関わって開発している分野です。

型式証明における証明方法は、基本的には申請者がどのように証明するかを考えます。航空局から指摘を受けながら、最終的に航空局と合意した内容で適合性を判定します。このように、試験をパスしているかどうか判定するのは国航空局ですので、基準とか手順はお互いに合意して決めます。

飛行試験の一般的流れ|空への希望を未来へ繋ぐ-伝説のテストパイロットが語る、エアモビリティのこれから|モビリティテスティング|東陽テクニカ

飛行試験の一般的流れ 出典:特徴・強み - AeroVXR合同会社より

空への希望を未来に繋ぐ-日本の航空機産業の明日のために

―AeroVXRの事業目的を拝見して、航空宇宙産業の未来に貢献したいという強いお気持ちを感じました。AeroVXRの創業の思いをお聞かせ願えますか?

自分が今までやってきたことを日本のために残したい、そのために会社を立ち上げなければならないという使命感が強かったです。

MRJのプロジェクトがとん挫した時は、残念で仕方なかったです。開発の凍結はアメリカで飛行試験機をバンバン飛ばしていていたタイミングでした。型式証明の8割までは到達していると実感し、目標は見えていたし、MRJは3,500時間近く飛んでいますので、安全に飛行できると実感していました。ただ普通に飛ばすことと型式証明をとることは違うのです。雲泥の差があります。

AeroVXRは、私と同じ思いを抱いていた中田と一緒に立ち上げました。中田の経歴が面白くて、MRJの初飛行頃は国土交通省の職員としてMRJの審査をしていました。その後他の会社への転職を経て、三菱航空機に入社し、今度は審査される側になり国土交通省と対面していました。そのため審査側と申請側の両方の想いを知っている唯一の技術者です。両方の気持ちがわかるので、型式証明を円滑に進めるにはどうしたらいいのか理解しています。私は飛行試験ばかりやってきたので、審査のことがわかる中田と一緒に事業を進め、日本国内での型式証明、つまり航空機開発を持続できる力を維持したい、できればさらに発展させたいという強い思いがあります。
日本の航空宇宙産業の発展のために寄与するというのが創業の思いです。

会社概要 - AeroVXR合同会社|空への希望を未来へ繋ぐ-伝説のテストパイロットが語る、エアモビリティのこれから|モビリティテスティング|東陽テクニカ

事業目的(Mission) 出典:会社概要 - AeroVXR合同会社より

スタッフ - AeroVXR合同会社|空への希望を未来へ繋ぐ-伝説のテストパイロットが語る、エアモビリティのこれから|モビリティテスティング|東陽テクニカ

中田様プロフィール 出典:スタッフ - AeroVXR合同会社より

―安村様・中田様の稀有なご経歴は、目前に迫ったeVTOLの型式証明だけでなく今後の日本の航空機開発にとっても貴重ですね。最後に、AeroVXRの活動の今後の展望をお聞かせください。

欧米では常に新しい航空機開発のプロジェクトがあるため、テストパイロットやエンジニアは一年中認証に関わっていられるので型式証明試験の経験は豊富なのです。
今は日本もMRJの認証活動が途絶えてまだ数年なので大丈夫だと思いますが、このまま5年10年と経ってしまうと、せっかくの型式証明経験も忘れてしまうし廃れてしまう可能性があります。
今、日本国内のeVTOLで型式証明を目指すというのは、航空機開発を持続できる力を維持するためにも良いチャンスです。
私たちはそのお手伝いをしていきたいと思っています。

また、現状のeVTOL以外にも、アドバンス・エア・モビリティと言われる将来的な空飛ぶ乗り物の開発もサポートしていきたいですね。アドバンスなのでこれから先どんな空飛ぶ乗り物が出てくるかわからないですが、アドバンス・エア・モビリティはどんどん発展していくと思います。
当たり前ですがこれらの空飛ぶ乗り物は安全でなければならないので、なんらかの認証の活動は必要です。安全安心の認証が取れる。これはMRJで培ってきたノウハウが活きてきますので、そこを支援していきたいですね。

今はMRJの開発を担っていた経験の高いメンバー4人でコンサルティングとして開発や認証のアドバイスをしていますが、eVTOLで経験を積んだ若い技術者が我々の活動に加わってくれると嬉しいですね。そしてまた次の世代の若い人を育てていくという未来へ続くサイクルを続けていきたいと考えています。

空への希望を未来へ繋ぐ-伝説のテストパイロットが語る、エアモビリティのこれから
AeroVXR合同会社 CEO安村佳之様インタビュー(全3回)

プロフィール
PROFILE

       

安村佳之

AeroVXR合同会社
CEO/テストパイロット

航空自衛隊、三菱重工業、三菱航空機で計35機種、約7,000時間の飛行を経験。
MRJの初飛行を機長として成功させた。
2021年、AeroVXRを設立。

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様々な角度から安全なエアモビリティ開発を支援するための評価ソリューションを提案しております。

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