電動化車両の時代に高まるISO路面と車外騒音測定のニーズ【再掲】
※本記事は2020年9月23日に掲載した記事の再掲載となります。情報はもとの掲載日現在の情報です。
最新情報と異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。
自動車から発生する騒音は年々減少し、エンジンのない電動化された自動車ではその傾向が顕著です。一方で従来エンジンからの騒音にマスクされていた路面の凹凸により起こる騒音や、モーターからの騒音などが問題になっています。特に路面の凹凸は、タイヤを介し自動車全体に振動を与えます。また、路面とタイヤの溝の空間にある空気は、圧縮され、勢いよく放出して大きな騒音を発生させます。これらはロードノイズ、(タイヤの溝の)パターンノイズと呼ばれています。近年自動車の車外騒音に対する規制は厳しくなっており、今後これらの騒音に対する対策がますます重要になります。
路面の凹凸を計測する「Surface Drone(サーフェスドローン)」
Müller-BBM社製の「Surface Drone」は、路面のさまざまな特性を自動的に測定、計算することができます。路面の粗さ・凹凸の測定と評価は、ISO 13473-1などに準拠し、道路新設時の品質保証および経年変化の検出の両方に有用です。走行音試験路面(ISO路面、ISO 10844)の認証に必要な以下のパラメータなどを算出できます。
- MPD (Mean Profile Depth) ISO 13473-1
平均プロファイル深さ - ETD (Estimated Texture Depth) ISO 13473-1
推定平均テクスチャ深さ - shape factor (g) and texture wavelength analysis ISO/TS 13473-4
「Surface Drone」は、道路建設会社や材料試験所の他、タイヤメーカーや自動車メーカーでも使用されています。後者では、テストコースの路面特性が特に注目されています。他社の路面測定システムは、定置式の大型のものか、乗用車に搭載される大がかりなものです。それらに比べて、「Surface Drone」はリモコンによる自走式で、小型で可搬性が高く、使い勝手が良いため誰でも簡単に測定できます。リモコンで操作するだけで測定でき、取得データは自動で計算され、パラメータがPC上に表示されます。
「Surface Drone」の技術仕様
「Surface Drone」は重さ約4kgで、人間がゆっくり歩く程度の速さで移動します。キャタピラ状のゴムベルトで駆動するため、路面との接触面が大きく路面の粗さが測定エラーを起こすリスクを最小限に抑えています。ゴムベルトには継ぎ目がなく、滑らかな踏面になるよう設計されていて、可能な限り静かで振動の少ない走行を実現しています。各種センサ(粗さ測定用のレーザー変位センサ、GPSセンサ、その他オプションのセンサ)、駆動用のバッテリーが内蔵されています。路面の凹凸と自動車の車外騒音に相関があることが知られており、その調査を行うことが可能です。
ISO 10844(ISO路面)の認証試験
東陽テクニカでは、ISO 10844(ISO路面)の認証試験サービスも承ります。詳しくはお問い合わせください。
複雑化する車外騒音規格
車外騒音(パスバイ騒音)のための規格は改定が行われてきています。例えば四輪車の騒音に関する規格UN R51は、近年UN R51-02からUN R51-03へ改定されました。UN R51-02ではアクセル全開での走行で騒音レベルを評価していましたが、この走行は実際の市街地での走行状態とは異なるため、R51-03では市街地走行での騒音レベルを想定した評価が行われるようになりました。この評価はアクセル全開での走行と定常走行の結果から計算して行うため、従来よりも試験方法が複雑で時間がかかるようになりました。
また近年では市場における電動化車両の数が増加し、新しい規格も策定されています。電動化車両は走行音が静かであるため、歩行者が車両の接近に気づかず重大な危険につながる可能性があります。このため電動化車両には車両の接近を歩行者に対して音で知らせる装置(車両接近通報装置、Acoustic Vehicle Alerting System: AVAS)が搭載されています。この音は歩行者が認知できるものである必要があるため、UN R138が策定されこの規格に沿って音を評価するよう定められています。図4のように、前進時(10km/hと20km/h)、後進時にそれぞれ定められた騒音レベル(Overall)以上であることに加えて、前進時は1/3オクターブバンド毎の評価も必要です(少なくとも2つのバンドで定められたレベルを超える、そのうち少なくとも1つのバンドは中心周波数1,600Hz以下のバンドであること)。また歩行者が車両の車速変化を認識できるように、AVASからの音は車速に応じて周波数特性が変化することも求められます。
なお国内では2018年3月から新型車へのAVASの搭載が義務化され、2020年10月からは継続生産車に対しても義務化されるため、UN R138に沿った測定の必要性が高まってきています。
「PAK」パスバイ騒音測定システム
Müller-BBM社の「PAK」パスバイ騒音測定システムでは、複雑化する規格試験をソフトウェアのガイダンスに従うことで、ユーザーは対話型で確実に試験を進めることができます。測定のプロセスは自動化されており、測定の結果はその都度基地局側、車両側の双方で確認できます。全ての測定が完了すると、自動的にレポート作成が行われます。
試験の前にはまずオーダーと呼ばれる車両諸元や規格の情報を含む試験計画を作成しますが、このオーダーは事務所にいる試験計画者が事前に作成しておくことで、テストコースの試験担当者と分業することが可能です。1つのオーダーの中に諸元変更した車両情報や複数の規格を登録できるため、効率的な試験が可能になります。テストコースで複数車両が走行する場合も、システムはGPS情報から各車両の位置を判別し、測定スタンバイ状態にある車両の諸元情報や、測定する規格に沿った試験のガイダンスを行います。またシステムは乗用車、大型車、二輪車などに関する国際規格、特定の国の規格(例:北米法規 FMVSS 141)など、様々な規格をサポートしています。これらの規格は逐次改訂され、また新しい規格も策定されるため、Müller-BBM社ではすぐに規格の改定、追加に対応するように測定システムの開発を行っています。
シミュレーションパスバイと寄与解析
車外騒音測定は天候の影響を受けやすく、多くの走行試験が必要なため、天候の影響なく繰り返し試験が容易な屋内でのシミュレーションパスバイ測定(インドアパスバイ測定)のニーズも高く、近年ISO362-3として規格化されました。「PAK」パスバイ騒音測定システムは、同じユーザーインターフェースで屋外での測定(リアルパスバイ)と屋内での測定(シミュレーションパスバイ)の両方に対応できます。ユーザーは試験室内のレイアウトに応じてマイクロフォン位置の設定などをするだけで、シミュレーションパスバイ測定を行えます。なおシミュレーションパスバイ測定とインドアパスバイ測定では路面の環境が異なるため、両者の車外騒音の測定結果には誤差が発生しますが、システムはISO362-3で規定される手順に基づきこの誤差を補正する機能も備えています。
車両開発の過程においては、車外騒音が規格で定められたレベル以下であることを確認するだけでなく、エンジン、排気、タイヤなど各コンポーネントからの寄与を解析することで、車外騒音のレベルを下げるための効果的な対策が取れるようになります。また電動化車両においてはエンジンからの騒音がない一方で、タイヤ、モーター、補器類などからの寄与を確認する必要性が高まっています。シミュレーションパスバイ測定と実稼働伝達経路解析を組み合わせることで、各コンポーネントから車外騒音への寄与解析が行えるようになります。これは車両の各コンポーネントに加速度センサ、マイクロフォンを設置して測定することで実現するため、従来行われてきたマスキング法と比較して、費用と工数を大幅に削減できます。
クラウドとの連携
「PAK」パスバイ測定システムは、Müller-BBM社が提供するクラウド環境PAK cloudに接続できます。各端末や計測器がクラウドを介して接続されることで、例えば事務所で作成したオーダーをすぐにテストコースに転送したり、テストコースでのマイクロフォン信号や気象情報を事務所の端末でリアルタイムに確認したり音を再生したりすることも可能です。測定結果やレポートは自動的にデータベースに登録されるため、諸元情報からデータを検索して、過去データを有効活用することもできます。PAK cloudはパスバイ測定以外の用途で使う端末、計測器とも接続できるため、大規模システムの構築や実験ワークフローの効率化に貢献します。
自動車から発生する騒音は世界的な課題であり、国連欧州経済委員会の騒音専門分科会では継続的な議論が行われています。国内では四輪車の騒音規格UN R51-03に関して、2020年にはフェーズ2のさらに厳しい規制値が適用され、今後フェーズ3の適用すら検討されています。また2018年からタイヤの騒音規格UN R117-02も適用が開始されています。これらの流れに対応するためにも、今後さらに車両電動化や路面の凹凸による騒音低減の流れは加速するものと思われます。東陽テクニカは、ISO路面の認証やパスバイ騒音の測定システムを通じて、車外騒音の問題を解決するお手伝いをいたします。
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