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インタビュー
2024/12/13

「第9回ドアサミット」株式会社SUBARU  伊藤憲一氏インタビュー

「ドアサミット」は、国内主要自動車メーカー各社の主催による、自動車のドアに特化したカンファレンスです。2016年、自動車ドアに関する情報交換の場を求める自動車メーカーの声に応えて東陽テクニカが事務局となりスタートしました。
「日本のドアをよりよくしていこう!」を理念に定例開催されているドアサミット第9回となる2024年は昨年に続き、リアルとオンライン同時開催の初のハイブリッド形式で9月10日に開催されました。

前編のドアサミットレポートに続き、今回幹事を務めてくださった株式会社SUBARU 技術本部 ボディ設計部 ボディ設計第二課 伊藤 憲一氏にドアサミットの感想や期待、今後の自動車ドアについてお話を伺いました。

インタビュアー

株式会社東陽テクニカ オートモーティブ・ソリューション部 浅原 亮平、夏 一寧

ドアサミット幹事 株式会社SUBARU 伊藤憲一氏へインタビュー

「日本のドアをよりよくしていこう!」という理念でつながる場は次のドア開発のモチベーション

夏:ドアサミットは今年もハイブリッド形式で開催しました。伊藤様はリアル参加ということで、実際に会場の雰囲気や交流の様子を体験されたと思います。現地参加ならではの印象や、ハイブリッド形式のメリットについて、どのように感じられましたか?

伊藤氏:私は2022年のオンラインから参加しています。
現地参加は昨年が初めてでした。その時の最後の挨拶でも話しましたが、ドアサミットの参加メンバーは同業他社でも敵というよりは仲間という意識があります。みんな苦労しながらドア開発に携わっているので、現地では悩みに対する議論なども会場の色々な場所で始まっていました。
現地参加する前には、同業他社はライバルとの印象が強かったのですが、参加してみて、敵ではなく仲間・同志の印象に変化し、議論を重ねる場として、素直に良いと感じました。
幹事である今年も同じような場にしたいと思い、開催しました。

浅原:みなさんは守秘義務の範囲の中ではあるものの、「こんな話までしてくれるんだ」という話を色々されていますよね。

他のOEMの皆さんから開発の苦労話をお聞きする事や、現状の困りごとの議論ができる場として、現地参加ならではの良さがあります。 今回、トヨタ自動車九州さんに「走行時 アウターミラーびびりの現象解明と推奨構造」というテーマで講演いただきましたが、事前の話し合いでも、この不具合をテーマにグループディスカッションをしたいという意見もありました。 みんなで世界のOEMに勝つために、「日本のドアをよりよくしていこう!」というドアサミットの理念が浸透し、年々よくなっていますね。

夏:ハイブリッド開催についてはいかがですか?改善点などはありましたか?

伊藤氏:ハイブリッドは現地に行けない方や、時間がなく特定の講演だけ聞きたいといった気軽に参加できるという面で良いですよね。 改善点は、技術講演の映像が止まるなどの通信トラブルです。 そのあたりのケアができたら問題ないレベルまできていると考えています。

浅原:次回通信トラブルがあった際は、状況を説明するなどの対処を行います。

伊藤氏:実はドアサミット後にサプライヤーさんと話したところ、現地参加を希望している方が複数いらっしゃいました。

浅原:現在は技術講演をしているサプライヤーさんのみ現地参加されていますよね。

伊藤氏:特にドア展示プログラムは、画面越しだと自分の見たいところが見られないので現地参加するメリットがありますし、開発メンバーと現地で直接色々な議論がしたいといった希望もありました。 現地参加したいサプライヤーさんは、実はもっと多いかもしれませんね。

浅原:現在の会場(東陽テクニカ本社)ではキャパシティの問題で現在の人数が限界ですよね。

伊藤氏:そうですね。これ以上は難しいかもしれないですね。お金を払っても参加したい方は多くいると思いますので、外部施設の検討も必要かもしれません。それだけ価値のあるイベントだと思います。サプライヤーさんが参加すると、より議論が活発になりそうですね。 ドア展示プログラムは時間切れになるほど盛り上がるので、ドア展示プログラムの時間をメインにドアサミット全体をどうやりくりしていくのかが今後の課題だと思います。 技術講演やリアルタイムアンケートはWEBのみで、実物を見るのが大切な展示イベントは現地のみという区分けがあってもいいですね。

夏:伊藤様のおっしゃる通り、ドア展示プログラムは今年も予定時間を超えるほど盛り上がり、活発な意見交換が行われました。特に今年は例年以上に熱気があったように感じましたが、その要因はどのようなところにあるとお考えですか?

伊藤氏:いろいろな方と会話させて頂いて、ポイントは3つあると思います。 1つ目は参加メンバーに技術者として、知りたいという欲求、技術者魂がある点です。 みなさん展示イベントで他社のドアの現物を見ると、自分たちがこだわって開発したドアとは違う構造になっているので、なぜこうなっているのか知りたいという技術者魂が強いと思います。

2つ目は達成感や満足感を得られる点ですね。 ドアサミットを通して感じるのは、自分が苦労して開発した内容を聞いてもらって、なるほどと言ってもらえると、自分の技術が認められたという達成感があるように思います。 同じ仲間に認められると苦労してきたかいがありますし、 自分が普通に思って説明したことに反響があると、満足感、達成感がありますよね。

最後の3つ目ですが、モチベーションアップにつながっている点です。 みなさん日々苦労しながらドア開発をしていると思います、 ドアはクルマの走る、曲がる、止まるとは別のところにあり、私自身はドア開発の難しさをわかってくれる理解者が社内には少ない印象もあります。ドアサミットに参加するとみんなが理解者で、ドア開発の難しさや苦労を分かち合え、仲間意識が生まれ、強い絆になるのではと感じます。

ドアパネル展示|「第8回ドアサミット」|モビリティ・テスティング|東陽テクニカ
ドアパネル展示|「第8回ドアサミット」|モビリティ・テスティング|東陽テクニカ

技術紹介(ドア展示)プログラムの様子

夏:ドアサミットへの参加が今後の技術開発にどうつながると期待されていますか?

伊藤氏:ドアサミットへの参加目的は新しい情報を得るだけではなく、参加したメンバーのモチベーションアップにつながっている要素が強いと思います。 「日本のドアをよりよくしていこう!」という理念でつながる場は次のドア開発のモチベーションになっていますね。

夏:運営させていただいている当社としては、日本のドア開発のモチベーションに貢献できていて非常に嬉しく思っております。

伊藤様が考える『良いドア』と今後のドアサミットの方向性

夏:続いて毎回恒例の質問です。伊藤様が考える『良いドア』とはどのようなものでしょうか?デザインや機能性、技術的な観点など、何かこだわりがあればぜひお聞かせください。

伊藤氏:昨年の技術講演「SUBARU & CROSSTREK」 のテーマでもお話したのですが、SUBARUのドアは「人を中心としたクルマづくり」の観点でこだわって開発しております。そこは航空機メーカー発祥のメーカーのSUBARUならではと思っていますが、特に人の運転視界や、開閉時の扱いやすさにこだわっていますね。 ドアの「扱いやすさ」は開閉フィーリングや閉めた時の音、閉めた時にしっかり閉まる、といった点ですね。 人が使うにあたっての「扱いやすさ」が良いドアとして重要だと考えています。

またSUBARUでは「仕立ての良さ」と言う場合があるのですが、建付けの分割面の見た目が綺麗という細かい寸法の話ですね、そういった仕立ての良さはこだわってやっていきたいです。

ドアは車に乗る人が一番初めに触る場所です。クルマの第一印象を決める観点でもしっかり感や仕立ての良さといった、抽象的で数値化が難しいところにSUBARUならではの味付けをしています。数値化は難しいのですが、波形などを見ながら作りこんでいます。 そのあたりの数値化は東陽テクニカさんのEZ Slamを使いこなす事で、もっと深堀りができると良いと思っています。

浅原:EZ Slamは役に立っていますか?

伊藤氏:従来の方法よりも、短い時間で色々な情報が取れるので、間違いなく良いです。 得られた情報を用いて人の感性を数値化しながら、SUBARUとしてのドアはどのような開閉フィーリングにするべきかといった作りこみに取り組んでいきたいです。

ドアサミット|モビリティ・テスティング|東陽テクニカ

ドア計測システム「EZ Slam2」

夏:ドアの重要な要素の一つに安全性があります。SUBARU車ではドアの安全性能に関して、どのような技術や工夫を取り入れているのか、また今後の方向性についてお伺いしたいです。

伊藤氏:航空機メーカーが発祥のSUBARUは衝突安全にもこだわっています。 新しい技術よりは既存の技術のやり切りに向けてしっかり取り組んでいます。 一例として、リアドアキャッチャーで横からの衝突時に車内へのドアの侵入を押さえているのですが、この点は昔からずっとこだわっていますね。 最近の衝突形態だと入力も強くなっている中、乗員に対する障害値をどう低減させるか、パイプかホットプレスかという工法から始まり、最適構造、レイアウトを常に考えて設定しています。

今後ですが、将来のことも含めドアサミットの場でもみなさんと色々な議論をずっとしていきたいですね。 例えば、衝突安全に関して「クルマが全て自動運転になったら衝突対応部材はいらなくなるのか」というテーマがあります。自動運転で衝突事故が激減する前提としても、山に登った際に横転するような事態は考えられるので、自動運転になるからといきなり軽量化して骨格部材を減らす方向にはいかないのではという意見もあります。そのような議論をみなさんと将来に向けてしていきたいです。

浅原:安全が確保されていることに加え、安心かどうかという観点は重要ですよね。

伊藤氏:燃費のことを考えると軽量化を考えますが、安全性には代えられないですね。

夏:今回9回目となるドアサミットですが、今後さらに発展していくためにどのような方向性を目指していくべきだとお考えですか?また、将来的にはどのような姿になっていくことを期待されていますか?

伊藤氏:現状の国内のOEMメンバーが集まって色々な会話や議論ができる場としてのドアサミットを継続したいです。参加者同士の技術交流によって、ドアサミットはモチベーションアップにつながっている場です。このようなモチベーションアップも含めて、技術者魂が刺激される場は必要ですし、いかに継続していくかが重要だと思います。

将来的な展望ですが、個人的なアイデアとして、各OEMの事業所で持ちまわってやっていくことも検討してもいいのではと思っています。 受け入れ側はとても大変になりますけどね。

浅原:競合他社を訪問する/受け入れるということに関して、各社で許可が降りづらいということはありますか?

伊藤氏:確かにそういう意味では、第三者的な立場である東陽テクニカさんが会場という今の形の方が参加しやすいかもしれないですね。

浅原:外部の場所を使うのであれば、名古屋や大阪でやることも考えてもいいかもしれませんね。

伊藤氏:関東圏だと交通の便の良さから参加しやすい利点がありますが、別の場所でやってみるのも良いですよね。現在も遠くからご参加されるOEMの方は前日に移動されていますし、関東圏以外でも集まることが出来ると良いかもしれませんね.

「SUBARU360」から続く、乗る人のことを最優先にした「人を中心としたクルマづくり」

夏:ここからはドアサミットに関連しないご質問になります。昨今、自動車開発でも環境への配慮やサステナビリティが大きなテーマとなっており、ドア開発においても軽量化やリサイクル可能な素材の使用などが進められています。最近SUBARUのレーシングカーでは、ボンネットやドアにカーボン素材が採用されるなど、軽量化が進んでいますが、こうした技術がドア開発に与える影響について、どのようにお考えでしょうか?

伊藤氏:カーボン素材は限られた台数のレーシングカーだけに採用しています。航空宇宙カンパニーの廃棄していたカーボン素材(廃材)をリサイクルしてレーシングカーに活用しています。
ただ、軽量化にカーボンを使うのは量産車にはコスト面で難しい状況です。一方で、今回、帝人さんの樹脂の技術講演も興味深く聞いていました。後日、帝人さんにSUBARU社内で同じ内容で技術講演いただきました。樹脂の実物展示もあり、実際のモノをみると議論は尽きなかったです。 ドアサミットで技術講演も含め色々な考え方を知ることで、新たな可能性を考える良いきっかけになっています。

浅原:軽量化は開閉の質感にも影響しそうです。

伊藤氏:質感を高めながら軽量化するのは、ドア開発の永遠のテーマですね。 軽量化は閉まり音、閉まり性と言った質感とのバランスが難しいと感じています。背反性能ですね。

夏:ドア開口設計について伺います。
フォレスターでは、リヤドアがほぼ真横まで開く設計やフロアのフラット化など、乗り降りのしやすさが追求されています。このような工夫が開発過程でどのように生まれたのかお聞かせください。

伊藤氏:「扱いやすさ」の観点から乗り降りを考えた時に、泥はねなどのクルマの汚れで洋服の裾が汚れるとか、そういった意見もあります。 特に車高が高いクルマだと、座った状態で地面に足を置いた時に車体にあたりやすいです。 いかに乗り降りしやすい構造にするか、という「人を中心としたクルマづくり」の考え方をしていて、デザインの前に、乗員のヒップポイントを想定して、そこから乗り降りするためにはどういう構造であるべきかについて議論しています。
実は1958年に発売された「SUBARU360」は前方のピラーが下まで降りておらず、足元の空間が広がっている設計でした。「SUBARU360」のころから、乗る人のことを最優先にした「人を中心としたクルマづくり」の観点で、小さいクルマだったとしても乗り降りしやすさに拘って設計されていたのだと思います。

浅原:「人を中心としたクルマづくり」はそのころから続いているのですね。

伊藤氏:SUBARUは今後も人がいかに使いやすいドアになっているかを常に議論しつづけたいと考えています。

本日はありがとうございました。ドアサミットが参加されているみなさんのモチベーションアップにつながっているという運営会社としても嬉しい内容も含め、「SUBARU360」から続いている理念、安全性のこだわりなどのとても貴重なお話をたくさん伺えました。 次回のドアサミットは運営面で映像配信など改善してまいります。今後もより良いドアサミットを目指して引き続きサポートしてまいります。

ドアサミット|モビリティ・テスティング|東陽テクニカ

ドアサミットに関するお問い合わせ先

株式会社東陽テクニカ オートモーティブ・ソリューション部
TEL:03-3245-1058(直通)
E-mail:web-car@toyo.co.jp
Webサイト:https://www.toyo.co.jp/mecha/

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EZ Slamは世界で初めてのドア閉まり動作の計測システムです。EZ Slamの革新的な機能により、ドア閉まりの一連の動作を計測、解析、比較ができます。精密なアルゴリズムと演算機能を組込み、ドア計測をよりシンプルに実現します。また、EZ Slamは主観的な感覚を客観的な数値に変換します。

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