May 6, 2024

映像制作におけるAI利用 — その課題と可能性、利用に不可欠なデータ管理について

*本記事は Perforce Software社の以下のブログ記事(2024年7月17日時点)の参考訳です。
 AI in Filmmaking — Issues, Possibilities, and the Need for Better Data Management
*ブログの内容は更新されている可能性があります。

AIが映像制作やメディア・エンターテインメント業界全体の今までのやり方に変革を及ぼす可能性があるということは、既に多くの人が知るところでしょう。現時点では、AIの利用については議論の余地がまだまだ残っており、多くのスタジオは慎重な姿勢を見せています。ゲームおよびメディア・エンターテインメント業界に対してPerforce Software社のデジタル制作支援ツールを紹介する立場から、多くの制作スタジオと会話をする機会がありますが、著作権のある作品をトレーニングデータとして用いている可能性のあるAIを使用することで法的な問題が発生することを恐れて、その使用を全面的に禁止しているところが多いのが現状のようです。

それでも、慎重にAIの利用を試しているスタジオもあります。この画期的な技術に世界が適応していくにつれて、メディア・エンターテインメント分野においてもAIの利用は徐々に広がっていくことでしょう。

本ブログでは、映画やメディアにおけるAI利用の現状を見ながら、その可能性を考察してみましょう。そして、AI利用を開始するうえで直面するであろう技術的な課題(データ管理インフラの見直しの必要性など)についても掘り下げて考えてみたいと思います。

映画、テレビなどのメディアにおけるAI利用に関する現状の議論

他の様々な業界と同様に、映画やメディア業界におけるAIの利用も依然として議論の多いトピックです。まずは、この技術を利用する際の倫理的および法的な問題について確認してから、利用によって得られるであろうメリットを考えてみましょう。

倫理的な問題

昨年ハリウッドで起きた歴史的なストライキによる影響が未だに残るメディア・エンターテインメント業界ですが、脚本家組合と俳優の組合が映画テレビ製作者協会(AMPTP)との間で結んだ協定には、AI関連の保護条項が含まれていました。しかし、この技術の採用によって影響を受けるのは脚本家と俳優に留まらないでしょう。

AIが業界全体に及ぼすであろう広範な影響については、業界のベテラン勢からも声が上がっています。例えば、タイラー・ペリーは、生成AIの影響を懸念して、自身のスタジオを8億ドルかけて拡張する計画をストップしました。彼は、俳優から音響技師、編集者に至るまで、業界のあらゆる職業の人々にAIの影響が出てくるだろうと懸念しています。

法的な問題

AI生成されたアートを制作スタジオが使用する権利が法的に認められているかどうかは、依然として不透明です。例えば、複数のビジュアルアーティストがStability AI、Midjourney、および他のAI画像生成会社に対して昨年起こした著作権訴訟では、裁判所は多くのアーティストの主張(著作権侵害を含む)を却下しましたが、Stability AIに対する直接侵害の訴えについては審議が続いています。

現時点では、生成AIの進化が早過ぎて、法制度が追い付いていないような状況です。そのため、一部のスタジオ(ボードゲームの開発会社Paizoなど)は、アート制作における市販の生成AIツールの利用を禁止しています。

AI利用によって期待できるメリット

これまで何人ものスタジオのリーダーたちと話をしてきた感じとしては、この業界においても今後、AIの利用は避けられないという意見で一致しているようです。そのため、AIの利用を慎重に進めながら、主に手作業のプロセス改善に活用することが最善であろうと考えられています。モックアップやストーリーボードの作成、編集などの時間のかかるプロセスを自動化することで、多くの時間を節約できるだけでなく、単調な作業を大幅に減らすことができる可能性があります。

映画やメディア制作におけるAI利用の本当のメリット:単調な作業からの解放

完全に、あるいは大部分がAIによって生成されたと分かっている映画を喜んで見る人がいるでしょうか。AIの入力データと出力データが適切であるかを確認し、必要に応じて修正や調整をするのは、人間の仕事になります。というのも、AIが生成したコンテンツをAIに与え続けると、AIからの出力が破綻することが分かってるからです。人間による独創的でユニークな入力が無ければ、AIの出力は支離滅裂なものになってしまいます。

本物のアーティストによって作られる本物のアートには、言葉では言い表せない特別な価値があるのです。

AIの本当の力は、創造的な作業から単調な部分を自動化できる点にあります。

映画やメディア制作におけるAIの活用例

ここでは、映画やメディア制作において、時間のかかる、単調な繰り返し作業のなかで、AIを使って自動化できるものをいくつかご紹介します。

初期のモックアップやストーリーボードの作成

生成AIは、キャラクターやオブジェクト、シーンの大まかな形を作成したり、ラフなストーリーボードを生成したりするのに役立ちます。これらをたたき台とすることで、アーティストはゼロから作業をする必要がなくなります。

現実の空間やオブジェクトの再現

現実世界のデジタルレプリカを手作業で作成するのは非常に骨の折れる作業です。しかし、AIと機械学習を用いたニューラル・ラディアント・フィールド(NeRFs)技術を使えば、2D画像から写真のようにリアルな3D環境を再現することができます。

リアルな背景キャラクターの生成

何百、何千もの背景キャラクターを個別にデザインするのは非常に時間のかかる作業です。しかし、AIを使えば、無数のキャラクターを自動的に生成することができます。

老化・若返り加工

AIのおかげで、タイラー・ペリーやトム・ハンクスといった俳優たちは既にメイクにかかる時間を何百時間も節約できています。生成AIは、様々な映画(例えば今後公開予定の作品『Here』でも)のポストプロダクションにおいて、俳優の老化・若返り加工に使用されています。

編集とポストプロダクション

カラーグレーディング、サウンドミキシング、特定のシーンからの不要なオブジェクト除去といった作業をAIを使って自動化することで、編集およびポストプロダクションのプロセスを効率化することができます。AI搭載の編集ソフトウェアは、映像を分析し、修正や調整が必要だと思われる箇所のアドバイスもしてくれます。

『ゲーム・オブ・スローンズ』のワンシーンにスターバックスのカップが映りこんでしまった事件は、皆様も記憶にもあることでしょう。もし当時、編集にAIを使用していたなら、そのエピソードが公開される前に、問題のシーンを見つけ出せたかもしれません。

ファイル管理

複数ファイルの名称変更、数千のファイルへのテクスチャの自動適用、一括アップロードのためのファイルの自動タグ付け、詳細なメタデータの付与、より正確なトランスクリプトやキャプションの作成など、AIを使うことで様々な作業を容易に行うことができるようになります。また、デジタルアセットマネージャー内にある既存アセットの検索もAIを使うことで、より素早く簡単に行うことができます。

映画制作におけるAI利用の技術的な課題

特定のプロセスの高速化や定型作業の自動化にAIを活用することを検討しているのであれば、実際に使い始める前に留意しておくべき技術的な課題がいくつかあります。

品質管理

生成AIによって作成されたものは、人がすべて慎重にチェックし、修正や調整を行う必要があります。映画『Late Night with the Devil』内で使われた、AI生成の骸骨に対する人々の激しい反発からも分かるように、多くの人はコンピューターによって作られたアートではなく、他の人間によって作られたものを見たいと望んでいます。明らかにコンピューターが作成したと分かるものに最小限の編集しか行わず、観客の反応を考慮することなく使用してしまえば、スタジオの評判は大きく損なわれてしまうことでしょう。

データ管理

ゲームエンジンやバーチャルプロダクションのような最新技術および手法を採用するにつれ、スタジオの多くが今まで以上に大量のデータを管理する必要に迫られています。私達はこれを「10倍環境」のように呼んでいます。AIを利用すると、管理する必要があるデータが更に指数関数的に増大します。それらを管理するためには、スケーラブルで強力なインフラを整える必要があります。

ストレージと計算能力の制限

AIのトレーニングには非常に大規模なデータセットが必要になります。そのため、自社の知的財産を用いてAIのトレーニングを実施しようとするならば、数百万のファイルを保存可能なストレージと、高性能なグラフィックス処理が可能な(GPU搭載の)サーバーハードウェアが必要になります。

映画・メディアスタジオが生成AIを利用するには、最新の技術スタックが必要

AIは、メディアやエンターテインメント業界におけるアート制作の方法を根本的に変えようとしています。競争相手がAIを導入して、より良い作品をより速く制作できるようになり、仕事を奪われるのではないかとの懸念から、AI活用を早急に始めようと考えるスタジオも少なくないと思います。どのような理由であれ、AIの導入を検討するのであれば、既存の技術スタックでAIの利用に伴って発生する、凄まじい量のデータを処理することができるかどうかを事前に確認しておくことが重量です。

仕事柄、様々な規模のメディアやエンターテインメントスタジオと仕事をしてきましたが、既存の環境では対応が難しいケースが多いように思います。規模の大小にかかわらず、多くのスタジオの開発パイプラインがかなり時代遅れで、AIの利用以前の問題として、リアルタイム3Dエンジンやニューラルネットワーク、分散レンダリングといった最新技術の負荷に既に耐え切れなくなり始めています。

例えば、以下のような項目が当てはまる場合は、あなたのスタジオの開発パイプラインは時代遅れで、AIの利用に伴い発生する大量のデータを処理できない可能性があります。

  • アーティストたちが各自の作品をローカルマシンに保存している
  • 大容量のアートファイルのチーム内での共有にメールやファイル共有サービスを利用している
  • 頻繁にファイルの競合やストレージの問題が発生する
  • ファイルのバージョンを手動で、または複雑なカスタムスクリプトで管理している
  • デジタルアセット開発におけるコラボレーションのプロセスが煩雑で、スムーズに進まない

もし、当てはまる項目があるとしたら、データ管理のインフラの更新を検討する時期に来ているかもしれません。出力データすべてを効率的に管理できるシステムがなければ、生成AIの有用性を最大限に引き出すことはできません。自社の知的財産を用いたAIモデルのトレーニングを計画している場合は、膨大なデータセットが必要になるため、強力でスケーラブルなデータ管理システムの重要性がより一層高まります。

AIを利用するために、ツールをアップグレードするのは費用も時間もかかり、予算的に難しいと思われるかもしれません。多くのスタジオは昨年の混乱からまだ立ち直っておらず、調子の良い時であったとしても、このようなプロジェクトに資金を割り当てるのは難しいものですよね。しかし、この問題をずっと先送りにするわけにはいきません。今こそ、インフラの弱点を見直して、解決策を検討し始める時です。

このようなインフラの見直しや将来にわたって通用するパイプラインの構築を専門家に任せることができます。詳しく知りたい方は、Perforce+ICVRのソリューションをご参照ください。無料相談のご予約も受け付けています >>

生成AIデータの管理のためのスケーラブルで安全なバージョン管理とは?

映画やテレビなどのメディアで使用するアートを、ゲームエンジンのような最新技術を使用して制作している場合、バージョン管理システムは無くてはならない存在です。映画やVFXの制作スタジオにとっての「バージョン管理」とは、ファイルパスベースのネットワークストレージソリューションのひとつかもしれませんが、ソフトウェア開発者や長年ゲームエンジンを使用しているチームにとっては、もう少し別の意味合いを持ちます。バージョン管理についての詳しい情報はこちらを参照していただければと思いますが、重要なことは、ゲームエンジンを使用するうえでは、ファイルの名前やパスの一貫性を保つ必要があるため、それを実現できるバージョン管理システムが欠かせないということです。手動ですべてのファイルを管理しようとするのは、到底無理な話です。

したがって、ゲームエンジンやリアルタイム3Dエンジンを使用する場合、バージョン管理システムは不可欠です。そして、扱うアセットの量が多くなれば、よりも堅牢なシステムが必要になってきます。映画やテレビ、VRなどのメディア用に複雑な3D環境を作成している場合、GitやClearcase、Subversionのようなレガシーツールよりも、スケーラブルで安全、かつ高性能なものが求められます。

Perforce Software社の「Helix Core」は、大手AAAゲーム開発会社20のうち、19スタジオが導入しているバージョン管理プラットフォームです。Unreal Engineをはじめとする主要なゲームエンジンとのシームレスな連携に加え、ペタバイト級のデータにも対応可能な性能の高さから、多くのユーザーの信頼を勝ち得ています。さらに、Helix Coreを使用することで、ファイルの競合を防止し、すべてのファイルのイテレーションを一元的に記録・管理できるようになるため、アートや3Dアセットの開発におけるコラボレーションが容易になります。様々な業界のクリエイターたちがゲームエンジン技術の活用を進めるなか、大手VFXスタジオもHelix Coreを採用して、制作作業の高速化と効率化に取り組んでいます。例えば、DNEGはUnreal Engineを使ったプロジェクトで、複数ベンダーとのコラボレーションにHelix Coreを活用しています。

Helix Coreは5ユーザーまで無料でご利用いただけます。Helix Coreについて詳しく知りたい方はこちらをご覧いただくか、以下までお気軽にお問合せください。

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