潜水艦探索への情熱にテクノロジーで応える
若狭湾海底に眠る潜水艦「呂500」を発見
(掲載日:2019年03月07日)
浦 環(うら たまき)教授 |
東京大学 名誉教授。一般社団法人ラ・プロンジェ深海工学会 代表理事。国立研究開発法人海洋研究開発機構 招聘上席技術研究員。日本の自律型海中ロボット研究の第一人者。 |
浦教授と東陽テクニカの出会い
浦教授はなぜ東陽テクニカを「呂500探索プロジェクト」のパートナーとして選んだのか、そのきっかけの一つとなった東日本大震災後のボランティア活動について振り返ります。
「呂500探索プロジェクト」がスタート
2018年、ラ・プロンジェは「呂500探索プロジェクト」に着手しました。海没処分から70年以上経過していて位置も不明な潜水艦の発見を目指す意義を、浦教授は次のように語ります。
「約40年前に若狭湾で行われた調査では、2隻の潜水艦の存在が示されました。海没処分されたのは3隻、内1隻が呂500のはずです。しかし当時のデータには2隻しか記録されておらず、呂500はその辺りには存在していないとも考えられました。」
このデータには、当時の調査の技術レベルが影響していると浦教授は解説します。
「当時の調査は、シングルビームソナーで行われていました。シングルビームソナーは、残念ながら海底を線的にしか調査できませんので、広い海底全体では誤差や調査できない隙間も生まれやすいのです。これを最新技術のマルチビームソナーで調査すれば、確実に違う結果になるはずだと考えました。マルチビームソナーは、海底を広範囲に正確にかつ隙間なく調査できます。」
そこで浦教授は、マルチビームソナーで若狭湾の海底を再調査することを、プロジェクトの第一歩と考えたのです。そこで、技術サポートスタッフとして、東陽テクニカの社員も調査船に同乗することになりました。
こうして2018年6月18日、「呂500探索プロジェクト」がいよいよスタートしました。
マルチビームソナーによって72年ぶりに姿を現した呂500
東陽テクニカは、マルチビームソナー「SONIC 2024」を使用した海底調査を技術サポートしました。マルチビームソナーは船から扇状に複数の音波を発射し、3D海底地形図を作成することができます。これにより、40年前の調査データでは2隻しか発見されなかった海底で、3隻の潜水艦を発見することができました。この調査データから、呂500を含む3隻の3Dモデリング画像を得ることができました。
「マルチビームソナーで作成された3D画像をもとに、呂500の前身であるUボートIXC型特有の潜陀が存在している潜水艦に狙いを定め、ROV(遠隔操作海中ロボット)による探査を行いました。決め手は、ムアリングホール(艦首の真ん中に空いた穴)でした。UボートIXC型と酷似しています。72年ぶりに、呂500に光をあてることができた歴史的な瞬間でしたね。」と、感慨深げに振り返っています。
72年の眠りから覚めた呂500を貴重な教材に
プロジェクト終了後、ラ・プロンジェは、呂500はもちろん伊121、呂68の3隻全ての潜水艦の正確な位置情報を一般公開しました。その目的を、浦教授は次のように語っています。
「今回の発見により、これからはGPSを使うことで行こうと思えば誰でも実際に3隻が眠っている場所に行くことができます。
3隻は歴史を学ぶことができる貴重な教材です。今回のプロジェクトを通して、社会に新たな教材を提供することができました。そこに大きな喜びを感じています。」
海の中に沈んでいるものは目で見ることができず、見えないものというのは忘れ去られてしまうことさえあります。見える形となった呂500の姿は、戦争のことを改めて考えるきっかけを与えてくれます。
東陽テクニカは、これからも浦教授の海洋調査への情熱とあくなき探求心をサポートしていきます。
◎参考文献
※ 勝目 純也 (2010)「日本海軍の潜水艦―その系譜と戦歴全記録」大日本絵画