ヒトとクルマの協働で未来のより良い社会を目指して
モビリティ研究の実証実験で実景によるドライビングシミュレーションを提供
(掲載日:)
ヒトとシステムとのインタラクション(相互作用)を研究
-HMI・人間特性研究部門での主な研究テーマについてお教えいただけますか。
一言でいうと、ヒトを中心とした研究をしています。
例えば自動車ではドライバーの「認知」、「判断」、「操作」などになります。
ヒトの最終的な行動には「認知」と「判断」が影響しており、そこに上手に働きかけることで行動自体が変わります。この働きかけについて、心理学や認知科学など他分野も含めて、ヒトの感情や意識、またその特性を活かすことを中心に研究しています。
基礎研究だけではなく、さらにその研究を実社会でどのように使ってもらえるのか、製品化やサービス化につなげることも目的としていて、学術研究から民間企業との共同研究なども進めています。
AD/ADASにおいては、その技術が進む一方で、ヒトとシステムとのインタラクション(相互作用)を総合してどう作用させていくかが研究の柱となっています。
ADASの活用に小型ロボットが活躍、言語学や心理学の要素も
―AD/ADASについて、実証実験で進んでいることや、社会への影響、今後の研究についてお教えいただけますか。
高齢者ドライバーが増えているなか、高齢者の交通事故を減らすための運転支援としてADASの活用が期待されています。
ADASからの指示や警告を、ドライバーであるヒトが機械的に感じず言語コミュニケーションとして聞き入れやすくするために、小型ロボットを活用することも研究しており、全国で実証実験を行っています。現在の実証実験では約7割の参加者の行動(運転操作)が改善されたという結果を得ています。今後は、例えば運転診断サービスなど、どのようにビジネス化していくか、実現の段階になるとみています。
自動運転ではレベル2やレベル3※の機能が実装されていますが、小型ロボットを設置することで、ドライバーの意識を維持しリスク回避につなげたり、無人車両の場合は車内の乗客たちの治安を守るなど、実証実験で効果を成しています。
活用という点において、ドライバーと支援システムのインタラクションが重要で、ヒトにとって単なる機械相手とならないように、心理学や言語学などの要素を含め研究を進めています。
※自動運転において、レベル2では高度な運転支援(ドライバー監視)、レベル3では特定条件下における自動運転(システム監視)を意味する。
名古屋大学 未来社会創造機構 HMI・人間特性研究部門
田中 貴紘 特任教授
ロボットを設置しておこなった実証実験
(提供:名古屋大学 未来社会創造機構)
システムを過信しない、その対策も課題に
-今回、ドライビングシミュレーターを活用した実験では、ADASにおける誤報、未報といった情報に対するドライバーの行動変容について研究されていました。誤報、未報が引き起こすリスクや対策について、お教えいただけますか。
ADASはドライバーの安全運転を補うこと―ドライバーの運転を支援することで交通事故軽減を目指しています。ただ、このシステムにドライバーが頼りすぎてしまうと、いわゆる過信の状態になり、情報の誤報や未報による事故の危険性が高まります。
例えば、システムからの「自転車が接近している」という情報に対し、ドライバーはいつも情報が来るものという安心感から、その情報を疑わなくなり、接近に関する情報が間違っている場合(誤報)、情報提供が何らかの理由,例えば自転車が発信器を保有していないまたは通信異常や通信遅延で届かない場合(未報)に、自転車との接触事故などを引き起こす可能性があります。
そのような安全面での課題に対して、過信防止の対策やどのようなインタラクションの在り方が良いのかを課題に研究しています。
特に今回は、ドライビングシミュレーターによって走行環境リスクを提示しドライバーの安全運転注意力を上げることで、咄嗟のリスク回避もできるのではないかという検証も行いました。
実験で使用したドライビングシミュレーター(名古屋大学内)
CGでは作れない実際の見通しの悪さや距離感が「True Sim」で実現
―今回の研究に東陽テクニカの「True Sim」がどのように使われたのかお教えいただけますか。「True Sim」は実験にどのような影響があったでしょうか。
今回の実験の目的は、ドライバーの安全運転注意力を維持するということでした。運転中のリスク(自転車や歩行者の飛び出し)を実際に感じてもらうことが肝心で、実景によるドライビングシミュレーターの必要性を感じていました。
そこで東陽テクニカにご相談して、「True Sim」を使って実景データを用意していただくことになり、一般的な住宅街の公道などを改めて撮影してもらいました。リスク提示という点においては、歩行者も実景に含まれていて大変助かりました。さらに自転車の飛び出しなどはCGで追加してもらい実験に必要な条件を適切に整えてもらうことができました。
「True Sim」映像撮影時の様子
名古屋大学 未来社会創造機構 HMI・人間特性研究部門
原田 あすか 研究員
今回、ドライビングシミュレーターの実験に参加した方々から任意でアンケートを取ったところ、29名のうち20名から「リアルで良い」、13名から「実景で運転しやすい」という声をいただきました。また、ドライビングシミュレーターでCGと実景両方とも体験したことがある25名のうち21名が実景の「True Sim」の方が良いという回答でした。
今回は特に参加者にとって見慣れた実景(名古屋市内で撮影したデータを使用)だったことでよりリアル感を感じてもらうことができたと思います。
CGは映像を綺麗に作り込むことはできますが、現実ならではの見通しの悪さや交差点の距離感などをドライバーに感じてもらうことが難しいです。今回の実験では実際の運転環境を感じてもらい、リスク提示に対してその反応や挙動を見ることが研究課題だったので、「True Sim」でその実験を行えたことは価値がありました。
今回の実験で使用した「True Sim」の実写映像
AD/ADAS技術は運転に関するリスクを許容するもの、協働していくことで運転を楽しいものに
―AD/ADAS技術の今後の可能性、社会に及ぼす影響についてお考えをお教えください。
AD/ADAS技術はどんどん進みますが、完全な自動化は難しいと考えています。支援システムはドライバーの安全運転をサポートする―補うものであり、ドライバーと支援システムが一体となり、協働で安全な運転や移動を目指すことが必要です。その実現を目指し、ヒトとクルマとのインタラクションはさらに重要性が増すのではと思って日々研究をしています。ヒトの個性や特徴は本当に多彩で、いかにパーソナルに対応できるかの研究も必要だと感じています。
高齢者ドライバーにとっては、安全運転の判断基準を見極めることも重要ですし、高齢者が運転を控える生活になったとき、社会がどのような移動手段を準備できるのか、そういったことも今後考えていかなければなりません。AD/ADAS技術は、運転に関するリスクを許容するのではなく、リスクを軽減するものであることを忘れてはなりません。使う側がシステムをよく理解して上手に使うことで事故をさらに減らすことができると考えています。
AD/ADASもロボットも、機械的にヒトを動かそうということではなく、上手に活用することで、運転を楽しいものとしてもらいたいと思います。こういった技術の活用によって、高齢者が楽しんで外に出る機会を創り出せたら、というのが研究を続けるなかでの私たちの思いです。
名古屋大学 未来社会創造機構 HMI・人間特性研究部門
金森 等 特任教授
「ヒトの知能が適切に使われる関係が、本来のモノとの在り方で、インタラクションとはまさにその付き合い方になる」と仰っていた金森教授。モビリティの進化とともに、協働していくことが私たちの新たな社会につながります。
東陽テクニカはこれからも、“はかる”技術で自社開発にも力を注ぎ、AD/ADAS技術の向上、次世代モビリティ開発を支援し、未来のより良い社会づくりに貢献してまいります。