技術資料

固体電解質の特性評価法の概論

I はじめに

全固体電池の実用化に向けて、固体電解質のイオン伝導率と化学的安定性の向上や、電極-電解質
界面状態の改善に課題があると言われています。電気化学的な測定項目は、インピーダンス試験によるイオン電導度や電子伝導度の測定、直流測定による電位窓の測定などで液系電解質と同様の
項目になります。
一方で物理特性に関しては、電解質が固体であることから拘束圧力が電解質ひいてはセルの性能に大きな影響を及ぼすということが知られています。つまり、全固体電解質の評価を行うためには、安定した荷重をかけながらの電気化学測定が必要であると言えます。本文章では固体電解質の特性評価方法について、具体例を例示しながら説明します。

固体電解質の試験概略図

固体電解質の試験概略図

II 測定システム

粉体電気抵抗率/加圧密度測定システムPRCD3100 (IEST社と厦門大学の共同開発)は、様々な
種類の荷重印加(図1参照)が可能な装置で、かさ密度の測定や降伏特性の測定、応力ひずみ特性の測定が可能です。 専用のセルは密閉性を有しており、対象となる酸化物固体電解質、硫化物固体
電解質、ポリマー電解質をグローブボックスの外部へ簡便に持ち出せます。電気化学測定装置が
接続可能なセルのため、種々な電気化学測定試験も実行可能です。

荷重印加のイメージ図

図1.荷重印加のイメージ図

粉体電気抵抗率/加圧密度測定システム概略図

図2. 粉体電気抵抗率/加圧密度測定システム概略図

III 使用事例

III.1 ペレット成型

固体電解質単体の電気化学特性評価を行う際、サンプルは粉体をペレット成型した後ブロッキング電極と蒸着したものを用意し、測定することが一般に行われています。製造過程の加圧が電解質の性能に影響を与えることは広く知られており、ペレット成型時に加圧を均一にかけることは測定の再現性を得るために重要です。
図3は、市販のプレス機械とPRCD3100で固体電解質をペレット成型した画像です。プレス機械は油圧プレスを用いるため荷重の確度が低く、場合によっては凹み、欠け、割れなどが発生する場合が散見されますが、PRCD3100はサーボモーターでの荷重を採用しており、固体電解質に均一な
力をかけ、均一な試料の作製が可能となります。

図3.プレス機械とPRCDで作成されたペレットの比較

図 3. プレス機械とPRCDで作成されたペレットの比較

III.2 イオン伝導率測定

荷重に対するイオン伝導率の影響を評価するため、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3(LATP)とLi6.5La3Zr1.5Ta0. 5O12 (LLZO)について、9MPaから36MPaの荷重下で電気化学インピーダンス
測定を行いました(図4)。この際のサンプルはIII.1で成形されたものに金電極をスパッタリング
成形したものになります。各荷重におけるナイキストプロットの結果(図4.右)をフィッティングすることによりイオン伝導率を計算したところ、荷重が上がるにつれて導電率が上昇する事が分かります(図4.左)。

図4. 種々の荷重下のLATPのナイキストプロットとイオン伝導性

図4. 種々の荷重下のLATPのナイキストプロットとイオン伝導性

III.3 電気伝導率とかさ密度の同時測定

粉体LATPの電子伝導率とかさ密度を10MPaから200MPa荷重下で計測しました。
かさ密度は1.7g /cm3 @10MPaから2.1g /cm3@200MPaと荷重の増加に伴い増加することが分かりました。一方で電子伝導度は、10MPaから50MPa程度にかけて上昇しますがそれ以降はほとんど変わらないか微減になっております。つまり、固体電解質の圧力に対するかさ密度と電子伝導度は完全には相関しないと言えます。

 LATPの電子伝導率とかさ密度の変化

図5. LATPの電子伝導率とかさ密度の変化

III.4 全固体電池のLi対象セルでのサイクル特性

Liの析出・溶解の安定性を評価するため、塩化リン硫黄リチウムを用いたLi対称セルについて、120MPaの荷重下で5サイクルの定電流充放電試験を行った後、110MPaの荷重下にて5サイクルの定電流充放電を行いました。 120MPaにおいて、Li の溶解・析出を繰り返すにつれてセル電圧が
減少していきましたが、110MPaに荷重を低減したところ、セル過電圧が上昇しました。
これは固体電解質の種々の抵抗が荷重により変化することを示しています。

 Li対称セルの定電流放電試験

図6.Li対称セルの定電流放電試験

III.5 CV測定-電位窓、集電箔評価

固体電解質の電位窓や集電体の反応性を評価するため、ステンレスを作用極、Liを参照極と対極に用い、0V-3V(vs Li)の電位範囲でCV(サイクリックボルタンメトリー)測定を行いました。
電位が3Vの時、電流密度は1.2 µA/㎠程度であり、明瞭な酸化還元ピークは見られず、電解質の
分解や集電箔の酸化は見られませんでした。

IV 結論

本文章では、固体電解質に関するいくつかの測定事例を紹介しました。電気化学特性については
電気化学測定装置、物理特性については粉体電気抵抗率/加圧密度測定システムPRCD3100を用いることで固体電解質の基礎的な特性を試験することが可能です。

V 参考文献

[1] Huang Xiao, Wu Linbin, Huang Zhen, et al. Characterization and testing of key electrical and electrochemical properties of lithium-ion solid electrolytes , Energy Storage Science and Technology, 2020,9 (2): 479-500.

[2] Yong-Gun Lee, Satoshi Fujiki, Changhoon Jung, et al.High-energy long -cycling all-solid-state lithium metal batteries enabled by silver–carbon composite anodes.2020, 4(5): 299-308.

[3] Nicholas Williard a, Chris Hendricks a, Jaesik Chung, et al. Effects of external pressure on phase stability and diffusion rate in lithium-ion cells .Journal of Electroanalytical Chemistry, 2021, 895, 115400.

[4] T / SPSTS 019-2021; Performance Requirements and Test Methods of Solid State Electrolytes for Solid State Lithium Battery; Inorganic oxide; Solid State Electrolytes for Solid State Electrolytes.


本内容はInitial energy science technology Ltd.の許諾を得て下記資料を一部改変し翻訳したものです。

引用元: Solid-state Electrolytes Testing Method for Electrochemical Properties

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